「競馬のプロの年収」と聞くと、あなたはどのような姿を想像しますか。実は、「競馬プロはいない」という声も多く聞かれます。
しかし、世の中には本物のプロ馬券師と呼ばれる人々が存在し、そのプロ馬券師の生活は謎に満ちています。中には、競馬で生計を立てる天才東大生のような存在が話題になったこともありました。
一方で、公式に「プロ」として認められている騎手の給料の仕組みや、競馬における騎手の賞金の取り分は明確に定められています。国内の騎手の年収ランキングだけでなく、世界のジョッキーの年収ランキングを見ると、そのスケールの大きさに驚かされます。
この記事では、馬券師と騎手という二つの側面から、「競馬のプロ」と呼ばれる人々の年収の実態に迫ります。
ポイント
- 「競馬プロ」の定義とプロ馬券師の実態
- プロ馬券師の具体的な生活と収入源
- 騎手の給料体系と賞金の仕組み
- 国内外トップジョッキーの年収レベル
競馬のプロの年収に関する定義と実態
- 「競馬プロ」はいないとされる理由
- 「本物のプロ馬券師」という存在
- プロ馬券師の生活と収入の実態
- 競馬で生計を立てる天才東大生の事例
- 馬券師以外の「競馬のプロ」とは
「競馬プロ」はいないとされる理由
「競馬のプロ」という言葉はよく耳にしますが、実は社会的に公認された「競馬プロ」という職業や資格は存在しません。
なぜならば、競馬はあくまで公営ギャンブルであり、馬券の購入は個人の趣味や娯楽の範囲内とされているためです。プロスポーツ選手のようにライセンスが発行されるわけでも、団体に所属して給与が支払われるわけでもありません。
税制面での大きな壁
過去には、馬券で得た利益を「雑所得」として申告し、外れ馬券代を経費として認めるよう求めた裁判が注目されました。一部認められたケースもありますが、基本的には馬券の払戻金は「一時所得」とみなされることが一般的です。一時所得の場合、経費として認められるのは「当たり馬券の購入費用」のみであり、外れ馬券は経費に含まれません。この税制が、馬券購入だけで生計を立てることを非常に困難にしています。
このように、収入が不安定である点や、税制上の取り扱いが厳しい点から、「競馬プロ(馬券師)」という職業は公式には「いない」とされています。
「本物のプロ馬券師」という存在
前述の通り、公的な「競馬プロ」は存在しませんが、馬券の収益のみで生活している人々、いわゆる「本物のプロ馬券師」は確かに存在すると言われています。
彼らは、単なる運や勘に頼るのではなく、過去の膨大なレースデータ分析、血統、調教、馬場状態など、あらゆる要素を複合的に評価する独自の予想法を確立しています。また、感情に左右されず、厳格なルールに基づいた資金管理術(賭け金の設定)を徹底している点が特徴です。
ただし、テレビや雑誌などで活躍する「競馬評論家」や「予想家」は、必ずしも馬券収益だけで生活しているわけではありません。彼らの主な収入源は、予想の販売、記事の執筆料、メディア出演料であることが多いです。
「本物のプロ馬券師」は、むしろメディアへの露出を避け、投資家のように淡々と馬券購入を繰り返す存在であると考えられます。
プロ馬券師の生活と収入の実態
プロ馬券師の生活は、非常にストイックなものです。一般的なビジネスパーソンとは異なり、週末のレースが本番となります。
平日は、過去のレース映像の確認、出走馬の調教状態のチェック、週末のレースのデータ分析などに膨大な時間を費やします。土日は、朝から最終レースまで、リアルタイムの情報を収集しながら馬券を購入し続けます。
華やかなイメージとは裏腹に、孤独で地道な研究と分析の毎日です。強い精神力と自己管理能力が求められます。
収入の実態については、「年収」として安定的に定義することは非常に困難です。なぜなら、収入は完全にレースの結果次第であり、年によって数千万円のプラスになることもあれば、逆にマイナス(赤字)になるリスクも常に伴うからです。
安定した給与所得とは異なり、常に変動する「事業所得(あるいは雑所得)」として捉える必要があります。
競馬で生計を立てる天才東大生の事例
「プロ馬券師」の存在を語る上で、過去にメディアで話題となった「競馬で生計を立てる天才東大生」の事例は象徴的です。
彼は、自身の専門知識を活かし、AI(人工知能)や高度な統計学を用いた独自の競馬予想システムを開発したとされています。このシステムを用いて馬券を購入し、一時期は巨額の利益を上げていたと報じられました。
この事例は、単なる勘や経験則ではなく、データサイエンスに基づいたアプローチによって競馬の収支をプラスにできる可能性を示唆しています。
ただし、このような特殊な事例が「誰でもプロ馬券師になれる」ことを意味するわけではありません。また、前述の税金問題(一時所得か雑所得か)は、このような高額所得者にとって常につきまとう大きな課題です。
馬券師以外の「競馬のプロ」とは
「競馬のプロ」というと馬券師や騎手を想像しがちですが、競馬産業は非常に多くの専門的な職業によって支えられています。
これらの方々は、公的な資格や所属団体があり、安定した収入を得ている「本物の競馬のプロフェッショナル」と言えます。
主な競馬関連の職業
- 調教師(ちょうきょうし): JRAや地方競馬の免許を持ち、厩舎(きゅうしゃ)を運営。競走馬を預かり、トレーニングや健康管理を行います。
- 厩務員(きゅうむいん): 調教師に雇用され、担当馬の日常の世話(餌やり、清掃、体調チェック)を行います。
- 装蹄師(そうていし): 馬の蹄(ひづめ)を保護・管理する「蹄鉄(ていてつ)」を装着・調整する専門家です。
- 牧場スタッフ: 競走馬の生産や育成(幼少期の訓練)に携わります。
- JRA・NAR職員: 競馬の開催運営、広報、施設管理などを行う団体職員です。
この記事では、これらの職業の中でも特に注目度の高い「騎手(ジョッキー)」の年収について、次章で詳しく掘り下げていきます。
騎手から見る「競馬のプロの年収」
- 騎手という職業の概要
- 騎手の給料の仕組みを解説
- 競馬における騎手の賞金の取り分
- 国内の騎手の年収ランキング
- 世界のジョッキーの年収ランキング
- 総括:競馬のプロの年収の多様性
騎手という職業の概要
騎手(ジョッキー)は、競馬のプロの年収を語る上で欠かせない存在です。彼らは馬券師とは異なり、明確なライセンス(免許)を持って活動するプロフェッショナルです。
日本における騎手は、大きく分けてJRA(日本中央競馬会)に所属する中央競馬の騎手と、NAR(地方競馬全国協会)の免許を持つ地方競馬の騎手の2種類に分類されます。
騎手になるには
騎手になるためには、JRAの競馬学校(千葉県白井市)や、NARの地方競馬教養センター(栃木県那須塩原市)に入学し、厳しい訓練を経て騎手免許試験に合格する必要があります。特にJRA競馬学校の入学倍率は非常に高いことで知られています。
騎手は厩舎やJRAに雇用されているわけではなく、基本的には「個人事業主」として活動しています。そのため、収入はレースの結果(成績)に大きく左右されます。
騎手の給料の仕組みを解説
騎手の収入、すなわち「給料」は、一般的な会社員のような固定給ではありません。収入の仕組みは主に以下の3つの要素で構成されています。
騎手の主な収入源
- 騎乗手当(きじょうてあて)
レースに1回騎乗するごとにもらえる固定収入です。レースの格(G1、G2などの重賞レースか、一般のレースか)によって金額が異なります。JRAの場合、G1レースであれば1回乗るだけで約8万円程度、一般レースでも約4万円程度の手当が支払われるとされています。
- 進上金(しんじょうきん)
これが騎手の収入の大部分を占める成果報酬です。レースで5着以内(または8着以内など、レースによる)に入り、賞金を獲得した場合、その賞金の一部が騎手に支払われます。詳細は次項で解説します。
- 調教手当(ちょうきょうてあて)
レースだけでなく、日々の調教(トレーニング)で馬に騎乗することでも手当が発生します。
つまり、レースに多く騎乗し、かつ良い成績を収めることが、騎手の年収に直結する仕組みです。
競馬における騎手の賞金の取り分
騎手の収入源の中で最も大きいのが、レースの着順に応じて支払われる「進上金」です。
JRA(中央競馬)の場合、レースで獲得した賞金(本賞金)は、以下のように配分されるのが一般的です。
- 馬主(オーナー): 80%
- 調教師: 10%
- 騎手: 5%
- 厩務員: 5%
具体例:有馬記念(1着賞金5億円)の場合
例えば、年末のグランプリレースである有馬記念の1着賞金は5億円です。(※2023年時点) このレースで1着になった場合、騎手には賞金の5%、すなわち2,500万円が進上金として入ります。たった1つのレースで、一般的な会社員の年収を大きく超える金額を稼ぐ可能性があるのです。
もちろん、これはG1レースという最高峰の舞台での話です。トップ騎手は、このような高額賞金レースで勝利を重ねることで、年収を飛躍的に伸ばしていきます。
国内の騎手の年収ランキング
騎手の年収は、その成績によって天と地ほどの差があります。まさに実力主義の世界です。
JRAが毎年発表する「騎手リーディング(勝利数ランキング)」や「獲得賞金ランキング」を見ると、その実態がよく分かります。
例えば、トップクラスの騎手(例:C.ルメール騎手や武豊騎手など)は、年間で200勝近く勝利し、騎乗馬の年間獲得賞金総額が30億円を超えることも珍しくありません。
仮に、獲得賞金総額が30億円だった場合、その5%が進上金となるため「1億5,000万円」となります。これに、年間の騎乗手当(例:年間800回騎乗×平均5万円=4,000万円)や調教手当が加わります。
このため、国内のトップ騎手の年収は、軽く1億円を超え、2億円以上に達すると推測されます。
厳しい格差の実態
一方で、勝利数が少ない騎手や、騎乗機会に恵まれない若手騎手は、収入が伸び悩みます。騎乗手当や調教手当である程度の収入は確保されますが、年収が1,000万円に満たないケースも少なくありません。同じ「騎手」という職業でも、年収には数十倍の格差が存在します。
世界のジョッキーの年収ランキング
国内のトップ騎手でも驚異的な年収ですが、世界のジョッキーの年収ランキングに目を向けると、そのスケールはさらに大きくなります。
なぜなら、海外には日本円にして数十億円規模の超高額賞金レースが存在するためです。
世界の超高額賞金レース(例)
レース名 | 開催国 | 総賞金(目安) | 1着賞金(目安) |
---|---|---|---|
サウジカップ | サウジアラビア | 約2000万ドル(約30億円) | 約1000万ドル(約15億円) |
ドバイワールドカップ | UAE(ドバイ) | 約1200万ドル(約18億円) | 約720万ドル(約10.8億円) |
ジ・エベレスト | オーストラリア | 約2000万豪ドル(約19億円) | ※出走枠の売買 |
※為替レートにより変動します。
例えば、サウジカップで1着(賞金約15億円)を取った場合、騎手の取り分(仮に10%と計算した場合)だけで約1億5,000万円です。※海外レースの進上金比率は国やレースにより異なります。
L.デットーリ騎手(イタリア)やR.ムーア騎手(アイルランド)など、世界を舞台に活躍するトップジョッキーは、これらのビッグレースを渡り歩き、年間で数十億円単位の年収を稼いでいると推測されます。
総括:競馬のプロの年収の多様性
ここまで、「競馬のプロの年収」について、馬券師と騎手という二つの側面から解説しました。最後に、この記事の要点をまとめます。
- 「競馬のプロの年収」は対象によって大きく異なる
- 公的に「競馬プロ(馬券師)」という職業は存在しない
- 理由は収入の不安定さや税制上の問題
- 馬券の払戻金は「一時所得」扱いが基本
- 外れ馬券は経費として認められにくい
- 一方で馬券収益だけで生活する「本物のプロ馬券師」も存在する
- プロ馬券師の生活は地道なデータ分析が中心
- AIや統計学で利益を上げた天才東大生の事例もある
- 馬券師以外のプロとして騎手や調教師などがいる
- 騎手(ジョッキー)は免許が必要なプロフェッショナル
- 騎手の収入は「騎乗手当」と「進上金」が柱
- 騎手の賞金の取り分(進上金)は賞金総額の5%
- 国内トップ騎手の年収は1億円を超える
- 騎手間の年収格差は非常に大きい
- 世界のトップジョッキーの年収は数十億円規模に達する